共同代表。東京大学大学院環境学専攻修了後、2009年から伊東豊雄建築設計事務所にてバロック・インターナショナルミュージアムプエブラなど国内外の建築物の設計・監理を担当。2016年からは野村不動産にて設計・監理と合わせてプロジェクトマネージメント等を経験。2019年にHUNE architectsを設立し、共同代表として新しいものづくりを目指して設計活動を行う。
LIFESTYLE
「HAUNをつくる人」インタビュー 「人間」と「もの」との関係作りが、暮らし心地につながる
1.「HAUN TABATA」の象徴としてのテーブル
コミュニティを作るためのシェアハウスではなく、“それぞれが気ままに過ごすスペースを作るためのコリビング”がテーマ。全てのものを盛りこむのではなく、少し際立ったものを考えてみようというところからデザインを始めました。
みんなが集まる場所で、それぞれが気ままに過ごすことを考えたときに、「HAUN TABATA」で象徴的な存在になったのが、リビングに作った大きなテーブル。でもそこにみんなが集まっている必要はなく、大きなテーブルの周りで、それぞれが気ままに過ごせる場所を作るイメージで考えました。重要となったのは、テーブルがどのように作られているか。そこで今回、建築工事で出た廃材をレジンで固め、テーブルを作ろうと考えたんです。
捨てられるものを使うという、サステイナブルな理由がひとつ。もうひとつは、廃材を利用することが、ここに住まう人に人間とものとのいい関係を作り上げるのではないかと思いました。
例えば、どこかで売っているテーブルは代替可能なものです。そのテーブルとの間に強い繋がりが作れるかといったら難しい。共有の場所で人間とものとが強い関係を作ろうとしたとき、ものとしての意味が必要です。その工事現場で出たものを使うと、それは唯一無二のものとなり、その場所を象徴化するものになっていくと思います。
少し違う言い方をすると、テーブルの裏にストーリーがあるんです。この建物を作るときの廃材を使ったテーブルと聞くと、想像が膨らむと思うんですよね。住む人がこの建物の歴史の中に組み込まれていると思えたら、HAUNという住まいと自分の関係が、より密接に繋がってくるのではないでしょうか。
シェアハウスは、深いところで人と物理的な環境を繋ぐのはなかなか難しいですが、HAUNの“人が気ままに過ごせる場所”という特殊な条件によって、いわゆるシェアハウスのコミュニティ作りからは少し離れ、人間とものの関係性をどうやって作るかを考えてみました。
2. シェアハウスやワンルームマンションと、HAUNの違い
共用部のないワンルームマンションは、部屋と自分の関係を結びつけるのは結構難しいと思うんです。置く家具によって自分の空間になっていきますが、部屋は一様で代替可能。そこに強い思い入れを持つためには、長く住まなければいけない。そうなると、そこでなければいけない何かは、なかなか生まれないかもしれない。
シェアハウスは、仲間にならなきゃいけないという雰囲気に、煩わしさを感じる人もいますよね。ゆっくり誰とも話さないで映画を観ていたいけど、部屋に引きこもるのではなく、みんながいるところにいて、「あの人いるな」くらいの関係性は築きたいというとき、その共用部では、自分の居場所だと思える場所を共有していることが重要だと考えました。自分の場所だと思えるかどうかは、人間とものがいい関係を築けるかなのではと。
僕は若い頃、自由に暮らしたくて、都心に寝てシャワーを浴びられるだけの部屋を借りていたことがあります。目的があればそんな生活も可能ですが、自分がどこにも属していない、アイデンティティがないような気がして、すごくしんどい暮らし方だなと思ったんです。安心して、自分の住まいだと思える場所がほしくなるんですよね。
シェアハウスは場所との繋がりはもちろんあるのですが、どちらかというと人の集まりに属することという方がメインだと思います。社会人になって毎日忙しく働いて、帰ってきてから人と交流して、というのは僕にとってはとても気合のいる生き方だなと。もう少しゆるくありつつ、そこが自分の住まいだと思える、そのひとつの在り方がコリビングなのかなという気がします。
住まいの在り方は家族の在り方と対応していて、家族とコミュニティの関係性はこういうものという議論の中で考えられてきたのですが、このコリビングで目指しているものは、それとはアプローチが違う気がするんです。家族を作るのではなく、個人が気ままに暮らせるってどんなことなんだろうと考えたとき、ワンルームマンションではなく、知っている人がいるゆるい世間みたいなものがあり、その中に自分がいる。そういう一人の人間としての住まいとして、ちょうどいいものを目指しているのかなと思います。
ちょっと挨拶するだけの、ひとつのテーブルを共有している仲間、くらいの繋がりがちょうどいい。何もないと繋がりは生まれないけど、そういった少し踏み込んだ空間的な工夫があると、帰属意識が生まれる。それがあるのとないのとは、全然違うと思います。これはすごく都会的なプロジェクトだと思うんですよね。東京のような大都市で、今ある住まい方とは違うものを目指すと考えると、コリビングは新しい生活の仕方と繋がっているんじゃないかと思います
「それが一つの選択肢になるべきなんじゃないかと思います。コリビングがスタンダードな暮らし方になるハードルは高いと思いますが、そういう選択肢があることに意味がある。自分らしい生活の仕方を追求できる場所にすること。それは人から押し付けられるものではなく、こういうのがいいなと思う人が少なからずいると思うので、そういう人たちの中に広がったら面白い。暮らし方はもっと自由なんだと思います」
3. 想像を広げられる、温かみのある住まい
そうですね。人間が人間らしくあるのには、二つの意味があると思っています。一つは抽象的な存在ではなく、動物としての人間の住まい。物理的な人間と環境の関係性を作り上げようとしたとき、自分の環境が唯一無二のものであると、関係性をうまく作っていけると思っています。それがHAUNプロジェクトで具体的に表れているのが、廃材を利用したテーブルです。
もうひとつは、僕が人間にとって重要だと思っているのは想像力なんです。このテーブルは建物を作ったときの廃材で作っているというストーリーを聞いて、単純に事実として受け止めるのではなく、工事の風景が思い浮かべられたり、そこに関わった人はどんな人だったのか、想像力を膨らませていけるような存在であることが、人間らしさだと思うんです。空間を作るとき、ものを作るときに、想像を広げられるきっかけを作っていきたいし、人間の住まいには大事な要素なのではないかと思っています。
理想としてはHAUN TABATAで使われた建材の余りが、HAUNのほかの場所でも使っていけるといいなと思っています。さまざまなエリアにあるHAUNに何かしらの繋がりを生むことで想像力がものすごく広がっていくと思います。そういう面白さを作っていくことはこれからのチャレンジですね。
マンションが建って、こういうハイスペックな建材を揃えて作られているというより、ストーリーがあって、そこに共感した人が住みたいと思って住むのとは、全然違うものだと思うんです。そこに余白がある方が、僕は人生が楽しいんじゃないかと思っていて。住まいの在り方はスペックで表れるものだけではなく、もののストーリーや自分がそこにコミットできる環境、思い入れが感じられるような素地だったり、そういうものが含まれているといいなと思います。
デザイン的にいうと、テーブルは意識的にも物理的にも繋ぐもの。住んでいる方が自由に過ごせることが大前提なので、テーブルの周りにはいろいろな場所があります。くつろげる小上がりや、集中して仕事ができるカウンターテーブル。小上がりで寝転ぶ人もいれば、端っこに腰かけて過ごす人もいるかもしれない。テーブルの周りにいろんな過ごし方を作ることで、いろいろな関係性を作ることができるのが、今回重要だったと思います。都会でワンルームマンションに住んでいると、なかなか実現できない余白ですよね。
それを押し付けすぎないことがHAUNの良さだと思います。自分らしく生きて、自分の生活をこういう風に豊かにしたいという理想がある人に上手くはまるのかなと。もちろん、僕なりの想像はありますが、全然違う方向にいったりする。それを見るのが楽しみです。